気がつけば愛でした
「聞いたよ、渡辺社長には連絡しといた。」
社長は戻ってきた静奈を呼んでそう言った。静奈は深く頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「でも君は連絡したんだろう?」
「はい…。」
「それなら本来はこっちが逆にクレームつけたいくらいだな。」
苦笑する社長に静奈は驚いた。もっと問い質しても良いはずなのに。
「社長…、信じて下さるんですか?」
「あぁ、信じるよ。第一、君は責任感が強いからそんなミスはしないだろ。パソコンにだっていつも付箋貼って確認してるもんな。」
あっさり言うが、自分の仕事を評価してくれた社長に胸が熱くなる。
「けど、だ」
「え?」
社長は机に肘をつけて前に立つ静奈を見上げた。
「渡辺グループの担当は高杉にやってもらう。」
「それは…」
「静奈ちゃんがどうのとかじゃないよ。ただ今回の件で相手側の君の印象は悪くなった。君のやることにクレームをつけやすくなったし、揚げ足を取られるだろう。わかるね?」
「はい…」
真実はどうであれ、印象が悪くなったのは事実だ。このまま静奈が担当し、同行して社長の評価まで下がるのは避けたい。
しかしやはりショックだった。
思わず俯くと、ドアがノックされる。
「社長…、よろしいですか?」
「諏訪?どうした?」
貴子が神妙な面持ちで部屋に入ってくる。