気がつけば愛でした


思考が止まり、静奈の時が止まる。



『もしもし?聞こえてる?』

「あ…はい…」



反射的に返事をする。電話の向こうで苦笑する声がする。
耳が、鼓膜が震える。



『声がはっきりしてないけど。寝てた?』

「いえ…寝てないです…」

『何、酔ってる?』

「多分…。…高柳…さん…?」



静奈は恐る恐る聞いた。
いや、聞かなくても直ぐにわかった声。でも聞かないと夢か現実か、はっきりしない。



『そうだよ。わかるだろ』

「はい…。あの…どうして電話…」



友香と一緒ではないのか


『いや…。帰り際、元気なかったろ?』

「…それで?電話を?」
『あぁ。どうしたかなって思ってさ。』



心配してくれたのだろうか。だからわざわざ電話をくれたというのか。



「電話、いいんですか?」

『え?』

「だって…友香さん…」
『あぁ。食事しただけだし。とっくにわかれた』


なんだかウンザリしたような声で答える。

何かあったのだろうか。
静奈が黙ってしまうと高柳がゆっくり聞いた。



『大丈夫か?』



その声が優しくて。

今ならまだまだ傷は浅くて済みそうなのに


それすらも無理だと気付く。



こんなにも



この声が嬉しい



「…っ…ふっ…ぅ…」

『…泣いてんのか?』



泣きたくなんてなかったのに。

気にして電話をしてくれたことがこんなにも嬉しい。

優しいその声に心が満たされる。



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