気がつけば愛でした
どうやって帰ったか記憶になかった。
気がついたら部屋の前にいて、あぁ鍵を開けないと入れないんだったなんてぼんやり思った。
ぼんやりしているのは熱のせいなのか、それとも友香の言葉のせいなのか。
わからないままベッドに潜り込む。
ただ友香の言葉が頭から離れない。
高柳と友香が結婚することは会社に利益を及ぼす。友香なら…今後、重役となる高柳の力になれるのだ。
自分は何も出来ない。
平凡な家庭で、利益となるような人脈もないただのOLだ。
何が出来るというのだろう。
「高柳さん…」
我慢していた涙がいつの間にか溢れていた。
唇にそっとふれる。
医務室でのあの優しいキス。優しい目。大きい暖かい手。抱きしめる力強い腕。
忘れることなんて出来ない。
出来ないのに…。
――自分では高柳の力になれない。
鞄の中で携帯が振動する音が聞こえる。
もぞもぞと手を伸ばし、ディスプレイをみるとそこには『高柳律』とあった。
「っ…」
出ることは出来なかった。
出るのが怖かった。
静奈は携帯を鞄の奥にしまい込み、布団を頭から被り直した。