気がつけば愛でした




どうやって帰ったか記憶になかった。

気がついたら部屋の前にいて、あぁ鍵を開けないと入れないんだったなんてぼんやり思った。


ぼんやりしているのは熱のせいなのか、それとも友香の言葉のせいなのか。


わからないままベッドに潜り込む。


ただ友香の言葉が頭から離れない。

高柳と友香が結婚することは会社に利益を及ぼす。友香なら…今後、重役となる高柳の力になれるのだ。

自分は何も出来ない。

平凡な家庭で、利益となるような人脈もないただのOLだ。

何が出来るというのだろう。



「高柳さん…」



我慢していた涙がいつの間にか溢れていた。

唇にそっとふれる。
医務室でのあの優しいキス。優しい目。大きい暖かい手。抱きしめる力強い腕。

忘れることなんて出来ない。


出来ないのに…。

――自分では高柳の力になれない。





鞄の中で携帯が振動する音が聞こえる。

もぞもぞと手を伸ばし、ディスプレイをみるとそこには『高柳律』とあった。



「っ…」



出ることは出来なかった。

出るのが怖かった。



静奈は携帯を鞄の奥にしまい込み、布団を頭から被り直した。












< 191 / 348 >

この作品をシェア

pagetop