気がつけば愛でした
「秘書課の人だっけ?」
そう言われ、ビクッと肩を震わせる。
低く、耳に良いその声には冷たい響きが含まれていた。
その整った顔を見上げる。黒い前髪の隙間から切れ長二重の瞳が私を見つめていた。
コーヒーを飲んだばかりのその形のいい唇はシットリ濡れており、とても色っぽい。
普通ならその姿にトキメキ、胸を高鳴らせていただろう。
そう。普通なら。
しかし静奈にはそんな余裕もなく、蛇に睨まれた蛙の気分だった。
蛇に睨まれたまま黙っていられるわけもなく、仕方なくのろのろと口を開く。
「秘書課の…橘 静奈と申します。」
さっきの彼のセリフから、どうやら静奈が同じ会社の人間ということは気が付いていたようだった。
出来れば名乗りたくはなかったが。