気がつけば愛でした
時間はもう19時を回っている。
ロビーでエレベーターを待っていると後ろから声をかけられた。
「あっ、橘さんだ。この間はどーも。」
「え?」
振り返るとどこかで見たことのある人が。
少し明るめな髪にちょっと幼さが見える人なつっこい笑顔。
「あ!貴子先輩と同期の…」
「そ。この前居酒屋で一緒に呑んだでしょ。覚えてる?」
「えっと…まぁ…」
曖昧に答えてエレベーターに乗る。
「あんまり覚えてない?まぁ、結構酔ってたしね~。」
「すみません」
「いいよ。じゃぁ名前も忘れちゃったかなぁ?」
名前。完全に思い出せなく、素直に頷いた。
「素直だね、なんかいいね。俺、上村保っていうんだ。よろしくー」
そう右手を差し出してくる。なんともチャラい雰囲気の人だが、出された右手をそのままにするわけにもいかず、おずおずと握り返した。