恋涙

マネージャーは留学のオファーがあったことをすぐに両親に話すべきだと何度も私を説得した。



でも、私は両親に話す気はなかった。



私がピアノを本当に好きなことは両親も分かっていた。



だから、そんなチャンスがあることを知ればきっと両親は私をウィーンに行かせようとしたと思う。



だけど、私はこの家の長女としてやらなきゃいけないことがある。



家のこと、そして家族を守らなきゃいけない。




忙しい両親に代わって私が家事をしなきゃいけなかったから。



妹の面倒を見なきゃいけなかったから。





私には見えない自分の未来より、目の前にある家族のほうが大切だった。







ただ単に中学を卒業するくらいの年齢で一人海外に行く勇気はなかっただけでもあるんだけど。




でも、両親には絶対口外しないでほしいとマネージャーに頼んだ。






実際、今でも両親はこのことを知らない。
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