恋涙
「もしもし、どちらさまですか?」
また少し沈黙がある。
「俺・・・。」
聞こえてきたのは結稀の声だった。
私は声が出なかった。
「絢香・・・?」
それはすごく力ない声だった。
もう、どこにも届かないような、そんな声。
今でも耳に焼きつくあの声。
私は怒ることも、責めることも出来ないでただ泣いてた。
「なんで連絡してくれないの!」
なんて、言えなかった。
理由なんてどうでもいいと思った。
「絢香・・・」
もう一度結稀が私の名前を呼ぶ。
「ごめん。ほんと、ごめん。」
結稀は何度も何度も謝って、そしてすぐに電話を切った。
受話器の向こうの彼は泣いていた。
私は彼の「ごめん。」の意味が「別れたい。」ということだと思った。