恋涙

噂をしている大人たちに、文句を言ったのは咲だった。



「あのっ!いい加減なこと言わないでください。誰が一番傷つくと思ってるんですか?」



咲は大勢の大人たちに向かって大声を張り上げた。



それだけで私の涙は止まった。




代わりに咲が大声で泣いていた。



柚也兄ちゃんが咲を抱きしめて、秋人は私の肩に手を置いた。




大阪から駆け付けた樹里は、一人部屋の隅で手で顔を覆って泣いていた。





もう、世界も私たちもバラバラだと思った。



こんな思いをするために彼と出会ったわけじゃない。


好きになったわけじゃない。



私にとって彼は自分よりも大切な存在。



だけど、結稀がいなくなっても世界は時を刻み続けるし、この日を笑って過ごした人もいる。




人ひとりいなくなっても世界が変わることはない。



人の存在って、命って、そんなものなのかと思った。








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