恋涙
九章
彼のいない世界
宮城に戻る日、私は彼の両親に呼び出された。
「あっちゃん、これ・・・。」
お母さんが差し出したのは、婚姻届だった。
“夫になる人”というところに確かに結稀の字で記入されている。
「なんですか、これ・・」
私は泣きながら少しだけ笑顔だった。
「柚也に持ってきてもらうよう、頼んでたみたいなの。これが結稀の最後の夢だったのね。」
お母さんはそう言って泣きだしてしまった。
「最後に書いてやってくれないか。承認は私たちがする。」
結稀のお父さんはお母さんの背中に手をあてながら私に言った。
無効の婚姻届。
提出することのない婚姻届。
私は迷わず記入した。
この夢が叶うことはないけど
ウエディングドレスを着て、あなたと歩くこともないけど
それでも良かった。
その婚姻届は今でも彼のお母さんが大切に保管している。
私が彼以外の人と婚姻届に名前を連ねる日まで。