恋涙
駅まで5分、ほとんど話すことはなかった。
改札の前まで来て、「もうここでいいよ。」と、私は秋人が持ってくれていた荷物を取った。
謝ろうと思っても、言葉が出ない。
私は秋人に背を向けて改札へ向かおうとした。
「あのさ!」
秋人が呼び止めた。
「何?」
「ひとつだけ、ちゃんと言っておこうと思って。」
私は何も言わず秋人の顔を見てた。
「俺の口からは一回も言ったことなかったけど、俺は十年前からお前のこと好きだった。」
秋人の何の迷いもない告白に、驚くこともなかった。
「秋、去年、ここで私ひどいこと言った。ごめんね。」
「あれはお前にも余裕がなかったけぇ。仕方ないと思うよ。」
珍しく秋人の口数が多いと思った。
「秋、今はまだ他の人を好きにはなれない。結稀を忘れるまで何年かかるかも分からない。私は今はこれまでの思い出に関わることに触れたくない。」
私の言葉に秋人は下を向いて少しだけ苦笑いをした。
強い風と太陽で、目は眩むし、風の音でよく声が聞こえない。
「・・・くかと思った。」
「え?」
「お前のことだから泣くかと思った!」
秋人が叫んだ。