恋涙
分かってた。


秋人がその質問をしない理由を。


だから私もあえて彼の話をしなかった。



でも、ちゃんと覚えてたよ。


「秋人、いいの。私、結稀のことちゃんと覚えてるから。」



私の一言に二人は静まり返った。




咲は「良かった。」とだけ言った。



秋人は、何も言わずに窓辺から空を見ていた。





結稀は私たちの幼なじみ。



そして、五年前に死んだ私の恋人。






秋人の考えてることは分かる。


記憶を失うなら、いっそ彼のことを忘れてくれれば良かったと・・・。








だけど忘れるわけがない、彼のことを。



彼と過ごした十年間を。



幸せだったあの笑顔を。








< 18 / 366 >

この作品をシェア

pagetop