恋涙
男の子はゆっくり私に近づいてくる。
その一歩一歩が私たちの距離を短くして、ついに男の子の顔が見えた。
少し茶色味のかかった髪に女の子みたいに白い肌。
彼は私の前まで来ると、にこっと笑って「犬、かわいいね。」とタローの頭をなでた。
人見知りの激しかった私はその言葉に何も返すことが出来ない。
そんな私を見て、彼はまたにこっと笑った。
「僕ね、お引っ越ししてきたの。おばぁちゃん死んじゃったから。」
そのとき、私たちがどんな話をしたのかはあまりよく覚えていない。
もう、十五年も前のこと。
私が遠く離れた街に住んでいること、家族のこと、タローのこと・・・
きっとそんなことを話したと思う。
ただひとつ覚えているのが、あの日、彼は亡くなった祖母からもらった指輪を公園に埋めていたと話してくれたことだ。
「将来、結稀が本当に大切だと思う人にあげなさい。」と受け継いだ指輪を・・・。
これが私たちの始まりだった。