恋涙

その大きい声は厨房までしっかり届いた。


私は嘘でしょ、と思いながらホールに出た。


「はい。」

大谷さんが携帯電話を私に差し出す。


「え、無理ですよ!」

私は断ったものの、大谷さんは無理矢理私に携帯電話を差し出してくる。


仕方なく電話を受け取って私は電話にでた。


「もしもし・・」


恐る恐る声を出すと、受話器の向こうから久保さんの声が聞こえてきた。


「あ、すいません・・なんだか酔っ払いの相手をさせてしまっているみたいで・・」


そのとき初めて彼の声を聞いたような気がする。

今まで声をかけても頷くだけの人だったから。


「あ、いえいえ・・またお店でお待ちしておりますので・・それじゃ大谷さんに代わります。」



そう言うのが精いっぱいだった。


電話、苦手なんだもん。


大谷さんは私から電話を受け取ると、「ホントにお前のこと好きって言ってたんだって!」と久保さんを説得してた。



「あいつ、信じてないみたい。」

大谷さんは久保さんとの電話を切ると私にそう言った。


「あら、それは残念ですね。」

私はそれはそうでしょ。っていうか話したこともないのに好きって・・・って思ってた。


ホントにこのときは全然意識してなかった。



「これ、あいつの番号だからメモしておいたら?」

大谷さんがケータイの画面を私に見せた。


「はぁ・・・」

私は乗り気じゃなかったけど、一応その番号をメモした。



「あいつね、恋愛に対してはかなりの奥手人間だから君から電話をかけた方がいいよ。」


私はその場を笑顔でかわした。





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