恋涙
大谷さんは私の番号を久保さんに伝えるから、と言って番号を聞いてきた。
きっと酔ってるから覚えてるのかわからないけど、でももし久保さんが電話をくれたら嬉しいなって思ったから私は大谷さんに自分の番号を教えた。
だけど久保さんから電話がかかってくることもなく、自分からかけることもできず、何週間か過ぎて行った。
そんなことも考えなくなったある日、大谷さんが一人で店にやってきた。
カウンターに腰を下ろすと、手招きして私を呼んだ。
「久保とはどうなの?」
「どうって言われても・・・」
「もしかして連絡してないの?」
「えーっと・・はい。」
「だめじゃん。君から連絡しないと!」
「まぁ何度か試みてはみたんですけどね~。お客様の個人情報ですのでこちらからかけることはできないんですよ。」
私も本当は何度もケータイの発信ボタンを押そうと思った。
だけど年齢が16も違う人に電話をかけるのはやっぱり気が引けたんだ。
「へぇ。でも何度か電話しようとしたんだ。それ、久保に伝えてあげるね。」
私は「あ、また余計なこと言った」と思った。
だけど今思えば大谷さんみたいに仲介してくれる人がいたから今の幸せがあるのかもしれないね。
そのあと大谷さんは転勤になって、それ以来うちのお店にくることはなくなってしまった。
それからしばらく経っても久保さんから連絡がくるわけでもなく、大谷さんもいなくなってしまって特に何も進展のないまま大学二年生の春休みが終わろうとしていた。