恋涙

そのあとのお客さんをお見送りするたびに店の外に出たけど、久保さんの姿はなかった。


本当に待ってるのかな?って思った。


店を閉めて、着物を脱ぐ前にまとめていた髪をほどいた。


鏡の前で、これから自分がどういう道を歩いていくんだろうって思った。


着替えをして、外に出ると黒いワゴン車が店の前にエンジンをかけたまま止まっていた。


それは久保さんの車だった。



私の姿を見つけると、久保さんは車から降りてきた。



私は軽く頭を下げた。


「あ、お仕事お疲れ様です。」


「あ、いえ・・久保さんもお疲れ様です。」


「私服、新鮮ですね。ロングスカート似合います。」


「え・・あ、ありがとうございます。」


そんな会話だった。



「及川さん、これからお付き合いする方向でご連絡してもよろしいでしょうか。」


その言葉は本当に突然だった。


だけど、驚かなかった。


そのときは冷静に考えられている自分がいた。



「ごめんなさい。私・・確かに久保さんのこと気になってました。でも、久保さんがお店にあまりいらっしゃらなくなって、自分の気持ちがよく分からなくなってしまったんです。」



私はそれだけ言って久保さんのもとを去った。







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