恋涙
久保さんのことはもう忘れよう。
そう思ってた頃、たまたま仕事が休みの日の夜にケータイが鳴った。
それは久保さんからの着信。
初めて久保さんから連絡が来た。
出ようか出ないかすごく迷ったけど、一応お店の常連さんだし・・って思った。
「もしもし・・」
通話ボタンを押すのにすごく時間がかかった。
「あ、もしもし・・久保です。今、お時間大丈夫ですか?」
「あ、はい。どうかしたんですか?」
「いや、前にうちの大谷が及川さんに結構絡んでたって聞いたんでお詫びを、と思いまして・・・。」
「気にしてないですよ、そんなこと。大谷さん、転勤しちゃったんですよね?」
「そうなんですよー。」
そんな他愛もない会話が二時間半続いた。
仕事のこと、大谷さんのこと、たくさん話した。
「久保さん、三月に入ってからお店にあんまりいらっしゃらなくなりましたよね?」
会話が終わりそうな頃、そんな話になった。
久保さんは「そうですね。」と言って少し黙ってしまった。
数秒の沈黙が流れたあと、口を開いたのは久保さんだった。
「じゃあ、これからは及川さんに会うために何度だってお店に通いますよ。」
その声が真剣なのは顔が見えなくても分かった。