恋涙

「母さん、ちょっと話があるんだ。父さんも一緒に。」


彼のお母さんは私にお辞儀をすると「わかった。」と言って部屋の奥に戻って腰かけた。


私も彼のあとをついて部屋に入ると、彼のお父さんもいた。


だけど彼のお父さんの姿は酸素ボンベを身につけていて、すこぶる元気というような状態ではなかった。


私はすべての状況がうまく読み込めなくて、ただ無言だった。



「父さん、母さん、今お付き合いしたいと思ってる絢香さん。結婚前提に交際を申し込んでいて返事はまだもらってないんだ。いずれわかることだから隠さないけど、彼女はまだ20歳で大学三年生なんだ。」


私はお父さんとお母さんに向けてもう一度会釈をした。


お父さんは私を見て笑顔で頷いてくれた。

「息子をよろしくお願いします。息子にはもったいないような子だ。」


私はお父さんの言葉に少しほっとした。


だけど、それはすぐに崩された。


「私は認められない。」


そう言ったのはお母さんだった。


「あなた今年で37になったのよ?結婚の報告ならともかく、二十歳の子とお付き合いしても結婚するかどうかの保証なんてないでしょう!彼女が結婚できるような状況になったときあなたはいくつだと思ってるの!」


「母さん!真剣に考えたんだ!」


「あなたが真剣でも彼女はどうなの。お互いが真剣じゃないと上手くいくはずがないでしょう。結婚するならあなたたちを認めます。でも、これから結婚を前提に交際していくというのなら認められない。」



それは極端な選択だった。


彼の必死の選択も虚しく、話し合いは平行線のままこれ以上話しても終わりがないということになって私はとりあえず帰ることになった。


「今日はとりあえず彼女を送っていくから。」


彼は私の腕を引っ張って立ち上がらせた。


私はお父さんとお母さんに頭を下げて彼の部屋を出た。
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