恋涙
幸せの一歩
それ以来久保さんからの連絡はなく、一週間が過ぎた。
いつものように学校が終わり、仕事に向かった。
着物に着替えて出勤し、予約帳を確認すると久保さんの会社の名前があった。
予約の名前がいつもは久保さんなのに違う社員さんの名前で、少し安心した自分がいた。
久保さんの会社は大企業で、社員も何千人といるから久保さんの名前で予約がなければこないと思った。
予約の時間になり、私はお店の入り口でお客様のお出迎えを始めた。
着物の袖を持って暖簾をあげ、お客様をお部屋に案内する。
久保さんの会社の人たちがほとんど来店し、まだ来ていないのは一名だけになった。
「すいません、一人遅れるので先に始めたいのですが。」
幹事らしき人が部屋から出てきてそう言った。
「かしこまりました。14名様でのご予約でしたので13名様分のお飲み物とお料理をお出しいたします。只今お飲み物をお伺いにお部屋に参りますのでお待ちくださいませ。」
14名の予約のうち、13名が揃っていた。
その13名の中に久保さんはおらず、ほっとした反面少し残念な気持ちもあった。
いや、残念な気持ちのほうが大きかったかもしれない。
久保さんの会社の宴会が始り、30分くらいが経った。
私は厨房での仕事に追われ、ホールの様子を見ることができない時間帯になった。
「101お揃いです!」
ホールにいた後輩が厨房に久保さんの会社が揃ったことを伝えにきた。
それは残りの一名が来たということ。
私は一名分の前菜とお造りを用意し、ホールにいる後輩に渡した。
「これ101の一名分ね。」
「はい、わかりました!」
後輩は私から料理を受け取ると101の部屋に向かおうとした。
「あ、ねぇ!」
「なんですか?」
「101の最後のお客さんって誰だった?」
「あ、久保さんでしたよ。」
「え・・あ、そう。」
私はドキッとした。