恋涙
久保さんはその場に立って私を見てた。
そしてみんなが注目している中で、彼は静かに話し始めた。
「及川さん、もう一度私を見てもらえませんか。やっぱりあなたが好きです。」
酔っているわけではなかった。
周りの社員さんたちは悪い冗談だと思っている人も少なくはなく、ざわめきが大きくなっていった。
「少々お待ちください。」
私は動揺しないように残りの料理を全て出し、久保さんの言葉には触れずに部屋を出た。
「及川さん!」
部屋を出ると後輩が後ろに立っていた。
「うわ、びっくりした。何?」
「今の何ですか!?もしかして及川さんと久保さんって・・・」
後輩が真剣に私の目を見ていた。
「あー・・うん・・まあそんな感じ。」
私はそのあと今までのこと全てを後輩に話した。
「後悔すると思います。」
後輩は静かに私の話を聞いていたかと思いきや、急に口を開いた。
「なにが?」
「及川さん、久保さんのこと好きなんですよね?」
「好きだけど、結婚なんて考えられないし・・・。」
「恋愛するのは二人なんですよ!先のことなんて誰にもわからないんですから!」
後輩の言葉は妙に説得力があった。
そのうちお客さんが帰り始め、久保さんの会社も会計が終わって帰ろうとしていた。
私は彼に返事をすることもなく、お見送りも後輩に任せてホールには出なかった。