恋涙

「どうしてそう思うの?」


自分の中で選んで選んで、選び抜いた言葉がそれだった。



「俺にはそう見えるんだ。正直なところ、君が何を考えてるのか分からない。」


彼は右手で頭を抱えた。


「何を考えてるのかって、それは久保さんに対してってこと?」


久保さんはずっと黙っていた。


でも、久保さんが言いたいことは何となく分かってたんだ。


私はどんなに好きでも愛情表現があまり上手くない。

16歳という年齢差からお互いに気を遣いすぎて、すれ違ってしまっていたことにこのときようやく気付いた。


私は日ごろ忙しい彼を気遣って、極力休みの日はゆっくり一人で休ませてあげたかった。


例えば彼が休みの日で、私が学校が終わって仕事まで少しだけ時間があったとしてもその時間の中で会いにいこうとは思わなかった。


なんていうのかわからないけど、やっぱり彼は年齢も自分よりかなり上だから、同世代とのような付き合い方じゃ釣り合わないような気がしたんだ。


だから少しの時間でも会いたいなんて言えなかった。


というか、自分もそこまで相手にべったりな恋愛は得意じゃなかった。


だけど彼側からしてみれば、日ごろ仕事で構ってやれないからせめて休みの日くらいは構ってやりたいって思ったんだと思う。


それなのに私は会わなくても平気、みたいな態度を取っていたから逆に彼を不安にさせてしまったんだ。



それを分かってはいたんだけど、別に今までの生活を変えて無理に私のための時間を作ってもらいたくなかった。




私は恋愛観が同世代の子たちより大人びていたから、彼が無理に若い子に合わせようとしないままで全然平気だった。



そんなわけで私たちの考えは思いっきりすれ違っていたんだ。





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