恋涙

本当に自分の耳を疑った。


だってその話を偶然私が聞いていたのもまるでドラマのような展開。


それがドッキリだったらどれだけいいだろうって思った。


同じ名字の人の話をしているのかもしれない。


ただの噂かもしれない。


だって私、何も聞いてない。




その時すごく怖くなった。


彼が離れていくこと、また一人にされること・・・



絶対噂だ、と思っていても、心のどこかでその噂を信じている自分が確かにいた。



だけどそれを確かめる術も、そんな勇気もなくて私はとにかく信じないと自分に言い聞かせるだけだった。



その二日後、私と久保さんのことを知る大場さんという彼の同僚が一人でお店を訪ねてきてくれた。



「珍しいですね、今日お一人ですか?」



「今日はちょっと絢ちゃんに話があってね。」


その瞬間、私はまた彼の転勤疑惑を思い出した。



大場さんがその話をし出すんじゃないかって、大場さんのその一言で感じていた。



「大場さん、お店の中ではちょっと困るので終わるまで待っていてもらえないですか?」


周りに他の常連さんたちがいたため、大場さんの話を店の中で聞くことができなかった。



きっと大場さんも久保さんの話をするつもりだったから、私の要求に「わかった」と答えてくれたんだと思う。



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