恋涙
さよならまで
久保さんの海外転勤の日まで残り一か月だった。
この時期での転勤は異例らしく、本人も実は全く予想していなかったらしい。
その残りの一カ月間を少しでも一緒に・・・と思い、私たちは残りの日々を一緒に暮らすことに決めた。
一分一秒を無駄にしたくないと思っていたから、逆を言えば私たちにはもうその選択しかなかった。
だから一緒に暮らす、ということはお互いがそうしようって思っていた。
久保さんに自分の気持ちを伝えた次の日、私は実家から必要最低限の荷物を持って久保さんのアパートに引っ越した。
両親には特に話さなくても大丈夫だった。
私はほとんど夜は仕事だから、帰ってくると家族は全員寝てる。
だからほとんど家で顔を合わせないんだ。
それに久保さんのアパートから実家まで自転車で10分程度だから、久保さんがいない昼間なんかは実家に帰ってたし、彼が仕事で遅い日で私が仕事休みの日は実家でごはん食べてたから。
心のどこかで罪悪感はあったけど、それよりも自分の幸せを考えたかった。
「やっぱりご両親に挨拶しなきゃいけない。」
持ってきた荷物を私が片付けていると、久保さんが私の横に座ってそう言った。
「私も久保さんのこと両親に話したい。でも、それで苦しむのは久保さんだよ。」
その意味を久保さんは理解していた。
挨拶をして久保さんの存在を認めてもらったところで、彼はいなくなってしまう。
久保さんはそれ以上の言葉を言わなかった。