恋涙
「浜辺散歩しようか。夕日がきれいだよ。」
久保さんの提案に賛成して、私たちはロビーから浜辺に出た。
沈みかけた夕日で、眩しい。
隣を歩いている彼の笑顔を見たいのに、眩しくて見れない。
浜辺に出て少し歩いても、久保さんは何も話そうとしなかった。
不思議に思った私は彼の手を取った。
「ねぇ、どうして何もしゃべらないの?」
潮風で乱れる髪も、手で押さえ切れない。
「君に話したいことを一つずつ整理してるんだよ。」
「じゃあ、整理し終わったら呼んで!」
私は久保さんの手を離し、波打ち際に駆け寄って波で遊んだ。
その様子を久保さんは少し遠くで笑って見てた。
波打ち際には小さな貝殻なんかが落ちてた。
私はそれをしゃがんで集めた。
顔を上げると、地平線に沈みかける夕日がきれいに見えた。
「絢香!」
後ろで見ていた久保さんが大きな声で私を呼んだ。
「なーにー?話の整理ついたのー?」
私も波の音に負けないくらいの大きな声で叫んだ。
久保さんはゆっくり私に近づいてきた。
「見て、貝殻拾った。」
私は久保さんに拾った貝殻を見せた。
真っ白の渦を巻いた貝殻。
気に入ったものを、ひとつだけ持ち帰ろうと思った。
久保さんは潮風で乱れる私の髪を笑いながら耳にかけた。