恋涙

「・・・整理できたよ。」

久保さんが目を細めて言う。


「なーに?」

私も笑顔で久保さんを見た。


久保さんは私の手を取って、持っていた貝殻を取ると私のポケットに入れた。


そして右手の薬指にはめられたお揃いのリングをゆっくり抜いた。


「ひとつだけやり残したなぁと思って。」


久保さんは私の指から抜いた指輪をまじまじと見た。


「何が?」


「ん?正式なプロポーズ。」


冗談のような顔をしている久保さんを見て、私は笑った。


今から離れてしまう恋人同士が婚約?


ドラマだってそんなベタなシーンなかなかないよ?


久保さんは指輪を握りしめると真剣な顔で私を見た。


「もしさ、何年か後に帰国してその時にまた出会ってしまったら・・お互いにお互い以上の人がいないって思っていたら、そのときは私と結婚してくれませんか。」


久保さんはとっても優しい顔をしていた。


きっとこんな結婚絶対にありえない。

何年か後に二人がもう一度出会うことなんて本当に奇跡に近いんだよ・・・


それでももし私がずっと久保さんのことを想っていて、何年か後に運命的な再会を果たしてしまったら・・・


そのときの答えなんて決まってる。



「はい。」



私は小さく返事をした。


そして久保さんの右手の薬指から同じように指輪を抜いた。


私たちはお互いの左手の薬指に指輪をはめた。


人生で初めて、婚約指輪をはめてもらった。




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