恋涙

私が寝ていると思っている彼は、私の目を伏せるように頭をなでた。


お酒の匂いがするのがわかった。



目を開けて驚かせようかな、と思ったとき、私の頬に冷たいものが流れるのがわかった。


それは彼の涙だった。


彼の涙が私の顔や手に落ちるたびにビクッとしてしまう。


「ごめん・・・ごめん・・ごめん・・・。」


彼は両手で私の顔を包みながら何度も何度も謝った。



一緒に住み始めてから、お互い涙しなかった。


いや、涙を見せなかっただけ。


お互いの知らないところできっとたくさんの涙を流していたんだと思う。



このときの涙を見て見ぬふりをするのはすごく大変だった。


すごく苦しかった。


彼の涙を受け止めて、自分の涙をこらえることがこんなにも難しいなんて。



これから先、この人より自分を愛してくれる人はいるんだろうか。



これから先、この人より愛せる人ができるんだろうか。




ずっとずっと一緒にいたい。


もう、自分の大切な人を失いたくない。



彼の涙を見て、私の中で何か自分が大切な決断をしなきゃいけないような気がしてたんだ。






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