恋涙
「おはよ!」
次の日の朝、彼は何事もなかったかのように笑顔だった。
「おはよ・・・昨日、何時に帰ってきたの?全然分からなかった。」
私はわざとそう言った。
「ん?12時過ぎくらいかなぁ。大口開けて寝てたよ。」
嘘だと分かっていながら私は笑った。
あの涙とは180度も違う態度に、余計に苦しくなった。
心の中では泣いてるの?
毎日無理して笑ってるの?
本当は置いていかれる私より、置いていかなければならない久保さんのほうがずっとずっと辛いのかもしれない。
彼の涙を見て、私は決断した。
「ねぇ、ちょっと行きたいところがあるんだけど。」
その日、休みだった久保さんに私は言った。
「行きたいところ?どこ?」
久保さんは新聞を読みながら答えた。
「市役所。」
私は洗濯を干しながら言った。
「何しに行くの?住民票?年金?」
彼が新聞をたたんで車のカギを取った。
洗濯を干し終わると彼は「じゃあ行きますか。」と、支度を始めた。