恋涙
私が予想していた反応よりも、久保さんは落ち着いて婚姻届を見つめていた。
「君はこれがどういうことだかわかってやっているのか?」
久保さんは婚姻届を折りたたんだ。
「わかってる。」
「じゃあどうして!」
彼が私の腕を思いっきり掴んだ。
強い口調に強い眼差し・・・泣きそうな目だった。
「それが私の幸せだからよ!」
珍しく大声を出した私に、彼は少し驚いた様子で腕を放して目をそらした。
「・・・無理だ。状況が違いすぎる。結婚と引き換えに君は夢を捨てることになるんだぞ。」
「大切なものはひとつしか選べない。」
そう言った瞬間、急に頭が割れるほど痛くなった。
そこから先のことはあまりよく覚えてない。
彼が慌てて病院に運んだんだ。
気がつくと頭痛は治まっていて、私は点滴を打っていた。
ふと横を見ると、久保さんが祈るように私の手を握っていた。
彼の頭をそっと撫でると、はっと顔をあげた。
「大丈夫か?」
私はただ頷いた。
「検査しよう。どこか悪かったら心配だ。」
「大丈夫。心配しないで。」
その日は私は検査をして帰ることになった。
なんとなく、嫌な予感がした。