恋涙
「今日、やっぱり一緒に行こうか。」
検査結果が出る日の朝、出勤する直前まで玄関の前で彼はそんなことを言っていた。
「大丈夫よ、一人で行けるから。大したことないと思う。そんなに心配されたら逆に心配しすぎて事故にでも遭ったらって心配になっちゃう。」
玄関先でカバンを渡しながら、笑ってみせた。
「検査の結果わかったら連絡して。今日は会議があるけど、留守電に入れといてくれればあとでかけ直すから。」
「わかった。」
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
彼が出勤してから私はある程度の家事を終わらせて病院に向かった。
せめてお母さんには伝えたほうがよかったかな。
そんなことを思ってた。
病院に着いて受付をすると、すぐに呼ばれて検査の結果を聞くことが出来た。
検査の結果、脳に腫瘍があることがわかった。
今すぐ命にかかわるほど悪くはないけど、何もしなければ確実に病気は進行していくと言われた。
今さら自分の人生にどんな問題が起きようと驚かないから、冷静に事態を飲み込んでいる自分がいた。
「なんて報告しよう。」
病院を出て、私は彼になんて言ったらいいか、その言葉を考えていた。
そしてもうひとつ。
彼と別れる決心も。
これが神様の決めたことなんだと思った。