恋涙
その真剣な表情に私は少し困った。
「どうしたの?」
私はもう一度ベッドの横に腰を下ろした。
久保さんは上半身を起こして私を抱きしめた。
「家で一人になるのってこんなにさみしいもんだったんだな。」
久保さんの体はものすごく熱かった。
「一緒に暮らすまで14年も一人で暮らしてたじゃない。それに久保さんが仕事から帰ってくるのを私はいつも一人で待ってるんだよ。」
私がそう言って久保さんの背中を叩くと久保さんは笑って私を離した。
「久保さんは病気になると甘えたさんになるんだね。よーく覚えておくよ。」
私は笑いながら買ってきた冷えピタを取りにリビングへ向かった。
久保さんはしばらく会社を休むことになった。
出発まで残り二週間もなく、この時間はきっと神様が私たちに与えてくれた猶予なんだと思った。
たくさん話をして、たくさん彼のために尽くせる時間だった。
最後の幸せを私は精一杯感じていた。
幸せだから、悲しかった。
別れなくてはいけないこと・・・
彼についていけないこと・・・
運命の全てを恨んだかもしれない。
どんな未来も久保さんと一緒に歩きたい。
それができない。
辛くて、辛くて心臓が抉り取られるような気持ちになった。
怖かった。
別れの日がもうすぐそこにあった。