恋涙
「明日から会社に行けるね。」
何日か経って、久保さんは熱も下がった。
「今日、仕事は?」
台所に立つ私のそばに来て、彼が聞いた。
「今日は休みよ。じゃなかったらこんなに悠長に台所に立ってないでしょう。」
彼はそうか、という感じで頷いた。
「出発まであと一週間だけど・・・」
彼が私の隣で急にそう口を開いた。
私は条件反射のように、料理をしていた手を止めた。
「一日だけ、休みが取れそうなんだ。」
私は隣にいる彼の顔を見たら泣いてしまいそうな気がして、じっと手元を見ていた。
「うん。」
そう答えるのが精一杯だ。
「最後の休みは全部君のために使うよ。何がしたい?」
「うーん・・少し考える。」
私は一度も彼の顔を見ずにまた料理を作り始めた。
「わかった。」
二人でやりたいことなんてたくさんある。
きっと自分の一生分の時間を使ったってやりきれないほど。
それをたった一日でやらなくちゃいけないんだから、わがままなんて言えないんだ。
あと一週間。
彼に何度でも自分の気持ちを伝えたい。
一生分、まとめて。