恋涙

「明日、何がしたいか決まった?」


久保さんの最後の休みが明日に迫った日の夜、彼が台所に立つ私に問いかけた。


「久保さんと一番最初にデートした場所に行きたい。」


「・・・うん、分かった。」


付き合う前に彼が誘ってくれた初デート。

最初にデートをした場所で最後に彼にたくさんの想いを伝えたい。


一番最初のあの時の気持ちに戻って、彼を想っていたい。


別れの日が一日一日近づいていくにつれて、家の中でも会話は少なくなっていくのが分かった。


眠りにつくまでベッドの中で弾んでいた会話もいつの間にか無くなった。


彼はただ切なそうな目で私をじっと見る。


それが何よりも辛かった。


行ってらっしゃいを言うのも、おかえりを言うのも、おやすみも、おはようも、あと何回言えるんだろうって、心の中で思うから笑顔ではその言葉を発することが出来なくなった。



最後まで彼と一緒にいるという選択は絶対に自分にとって辛いことだっていうのは分かっていたけど、これほどまでに心が引き裂かれそうだとは思わなかった。


何度も隣で眠る彼の寝顔を見ては、涙が出た。


ベランダから彼を見送って、彼の車が見えなくなると涙が出た。


何度も彼の前で泣きそうになった。



それでも後悔なんてしなかった。


最後まで彼と一緒にいると決めたことに。


最後の時を迎えようという今、私は彼に何をしてあげられるだろうか。


そんなことをずっとずっと考えていた。






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