恋涙

「明日、会社のみんなが送別会を開いてくれるんだ。君の店だよ。」


帰りの車内、彼が少し申し訳なさそうに話した。


「知ってるよ。予約入ってたから。」

「他の店の方がよかったよね?」

「そんなことないよ。だって、最後に見送られる場所が私達の出会った場所なんだよ。それに、ちょっとでも長くあなたの顔を見ていられるしね。」


本当は複雑な気持ちだった。

彼が、本当に私から離れていくことを実感させられそうで怖かった。

「明日の挨拶、ビシッと決めないとだなぁ。君が見てるから。」

「かっこいいこと言ってね。」

「もう、言うことは決まってるから。」


こうやって二人で過ごす時間にも終わりが見えてきた。

出会った頃、私はまだ18歳。

彼は35歳。

生きてきた世代が違う私たちが恋をして、いろんな傷害を乗り越えて、やっと見つけた幸せ。

できることなら、この恋をずっとずっと信じていたかった。

これから先の未来を、お互い、おじいちゃんおばぁちゃんになるまで、手を取り合って歩んでいきたかった。


そんな本音を、いつか死ぬときに誰かに話すのかもしれない。

彼を想いすぎて、一生話せないのかもしれない。


でも、どんな未来にも2人は一緒にいない。


さよならを言う準備をずっとしてきたはずなのに、最後の最後で入れ忘れた荷物があって、もう気づいた頃にはいっぱいいっぱいで入らない状態なんだ。



その大切な最後の荷物が、あなたを好きっていうこの気持ちなんだと思います。
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