恋涙

「今日はこのような会を開いていただき、ありがとうございます。」

この一言に、私はもう泣きたい気持ちでいっぱいだった。


彼は会社に入社したときのこと、今の部署での思い出などを話していた。

その中には私の知らないことも多かった。

私の知らない、15年分の彼がいた。


挨拶も終わりの頃、彼が私を真っ直ぐ見て、予想もしなかったことを話し始めた。

「私には、結婚を前提にお付き合いをしている女性がいます。」

その一言に、私のことを知っている何人かが私を見た。

「恥ずかしながら、この歳で、自分とはかなり年の離れた女性です。」

私のことを言っているのが分かって、私より先に後輩が涙をこらえるのが難しくなり、厨房に戻ってしまった。

「本来ならついて来て欲しいと、かっこよく言いたかったんですが、夢を追う彼女にそんなことは言えませんでした。アジアのプロジェクトは入社当時の私の夢でした。だから、自分もこの仕事を成功させて、必ず成長して帰ってきます。」


周りからは拍手だ。


私は仕事だからと自分に言い聞かせることで涙をこらえていた。

スーツを着た彼が、とても頼もしく見えた。

大好きだった彼のスーツ姿。

いつも見てたんだ。

初めて出会った頃から・・・


だけど、いつも遠くに感じてた。

お店に来る、仕事モードの彼。


もう、ここで彼と会うことは二度とない。
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