恋涙
アパートに戻ると、23時を軽く回っていた。
先に中に入った彼は、リビングのドアを開けるとその場に立ち止まっていた。
「どうしたの?」
「何にもないね・・・。」
「あ・・今日、私の荷物全部実家に運んだから・・・。」
「そっか。」
部屋の中にはベッドしかなくなった。
彼が行ってしまったあと、このベッドも処分する。
二人で選んで買った、思い出のダブルベッド。
彼は空っぽの部屋を見て、急に拍子抜けした様子でベランダに出て行った。
着替え終わった私は、部屋からベランダにいる彼の後ろ姿をしばらく眺めてた。
「はい。コーヒー。」
彼の好きな缶コーヒーを、ベランダに出て行って彼に渡した。
「ありがと。」
二人で缶コーヒーを開けながら、ベランダで肩を並べた。
夏の面影のない、肌寒い空だった。
「・・・君は強いよ。」
彼がコーヒーを片手に空を見ながら言った。
「ん?」
「出会ってから三年間、何度も思ったことだよ。」
「どうして?」
「言葉にはできないけど・・・だけどな・・」
彼の声が少し震えているような気がした。
「泣いてもいいんだよ。強がらなくたっていいんだ。もういいから・・・。」
そう言って、彼は私の手を引いて抱き寄せた。