恋涙
寝付くことなく朝になった。
ベッドから起き上がると、彼は浅い眠りについていた。
別れの朝、その日、私は朝一番の講義が入っていた。
つまり、彼よりも先に家を出ることになる。
身支度をしていた時、彼に書いた手紙のことを思い出した。
その手紙を握りしめて、彼の寝顔を少し遠くから見た。
彼と出会ってから三年分の想いを綴った手紙。
それを彼の手帳の中にそっと入れた。
部屋の中には何もないから、いつものように朝ごはんを作ることもない。
彼の大きなスーツケースだけが、部屋の中で目立っていた。
「おはよ・・・。」
着替えも終わり、あと15分で家を出るという時、彼が目を覚ました。
「おはよ。ごめんね、今日送り出してあげられなくて。」
「いや、いいんだ。お昼過ぎだから、出発。」
とにかく早く家を出たかった。
この瞬間に泣きだして彼を困らせてしまったらどうしようって、自分を保てなくなったらどうしようって思ってた。
「行くね、私・・・。」
荷物を持って、私は玄関に向かった。
そのあとを彼がついてくる。
泣かない。絶対。
そう決めていた。
「絢香。」
私が靴を履いて出ようとドアに手をかけたとき、彼が私の名前を呼んだ。
それでも後を振り向くと泣きだしてしまいそうで、彼のほうを向くことができなかった。
「ありがとう。愛してる。」
そんな恥ずかしい言葉を背中に受けて、私は家を出た。