恋涙

彼と過ごしたアパート。


一度も振り返ることはなかった。



大学へ向かう電車の中、バスの中・・・


何度も泣きそうになって、それでも必死で堪えていた。


大学に到着し、教室に入ると私が一番だった。


講義が始まる時間になると、彼が今日出発だと知っている友達が何人か教室に入ってきた。


みんなが少し違った目で私を見ているのが痛いほどよく分かった。


それでもみんなの前で泣いたら、心配をかけてしまうと思った。


だから講義中も必死で必死で耐えていた。



講義も終わりのころ、ふと出した手帳の中に、見覚えのないオレンジ色の封筒が入っていることに気付いた。


封筒には何も書いていなくて、不思議に思って私は中を開けた。



それは、彼からの手紙だった。



その時、一気に張りつめていた糸が切れて、涙があふれた。


隣にいた友達が優しく背中をさすってくれることに安心もした。



本当に最後だったんだ。


私の人生の中で、彼と過ごす時間は本当にあれが最後だったんだ。



今日、私が帰る場所は彼のところじゃないんだ。


どこかで私は現実を受け入れてなかったのかもしれない。


それが彼の手紙を見ることで、彼と離れることが、会えなくなることが現実なんだと思い知らされたんだと思う。


本当は見送りに行きたかった。


だけど、きっと泣いてしまうから・・・


彼には泣き顔じゃなくて、笑顔の自分だけを覚えていてほしかったから、どうしても行けなかった。
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