恋涙

大学で、彼が出発する時間を私は迎えた。

見送りに行った方がいいと言った友達もいたけど、迷いはなかった。


心のどこかでほっとしてる自分がいたのも事実だった。

あと一緒にいれるのは何日って、数えて迫ってくる別れに押しつぶされそうになっていたから・・・

だからやっとその山を越えたって勝手に思ってた。



その日、私は仕事だった。


まだ彼と別れた実感がなくて、仕事をしている間も彼が外国へ行ってしまったことなんて忘れて仕事をしている瞬間もあった。


一人出勤で、早めに仕事が終わった。

着替えをして、車に乗り込んで発進した時、私は無意識のうちに駐車場を出て一番最初の角を右に曲がった。


実家に帰るためには、左に曲がらなくちゃいけない。

右は、彼と過ごしたアパートに向かう道だ。


右に曲がった瞬間、それを思い出して涙が止まらなくなった。

私はすぐに車を止めた。


もう、この道を右に曲がることはない。

仕事が終わって、彼のもとに帰ることも、「おかえり」って言ってもらえることも、言ってあげることもない。

あのベランダから手を振ることも、笑い合ってご飯を食べることも、ケンカをすることも、行ってらっしゃいを言うことも、ネクタイを結ぶことも、二人でコンビニに行くことも、一緒に過ごすことも、全てなくなった。

一緒に共有できる時間が一秒たりともなくなった。


「どうして・・・」

そればっかり言って、私は止めた車の中でハンドルを叩いて声をあげて泣いた。

気は済まなかった。


全然済まなかった。
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