恋涙
十四章

この道を


彼がいなくなって、一番辛いと感じる時は仕事をしている時だった。


今までと変わらず彼の会社の社員が来ていたり、別の会社でもスーツを着ている人ばかりを見るから、その姿をどこか彼と重ねていた。


請求書を書こうとして名刺を探している時に、彼の名刺を見つけてしまって悲しくなる時もあった。

それが彼のことを一時的に忘れている時だと余計に悲しい。


最初の一カ月は些細なことでも反射的に涙が出た。

それは絶対に妥協を許さない仕事にも支障をきたした。


情けなさ過ぎて余計に涙が出て、こんなに好きな人と別れることが辛いなんて自分の覚悟よりも遥かに上の苦しみがあった。



それでも大学の仲間の前では絶対に泣きたくないって、泣かないって決めてた。

絶対に笑顔でいようって。

心配させちゃいけないって。

その日中の緊張感が、夜一人になると一気に取れて朝まで眠れず泣き続けた日も何日もあった。


泣き腫れた目を一生懸命化粧で隠し、一睡もしていないことなど気付かれないようにしなきゃいけないって必死だった。


唯一の救いは、彼が行ってしまった二週間後に教育実習があったことだ。


大学に行かず、友達に会うこともない。

仕事も一ヶ月間休みで、自分の夢のために一生懸命になれる。


その忙しさがありがたかった。


心のどこかにある彼への想いを一生懸命閉じ込めて、彼と過ごした頃とは全く違う新しい環境で過ごす一カ月間がなければ、私はとっくの昔にダメになってたと思う。



辛い時だからこそ、自分の夢だけを真っ直ぐ見ようって思ってた。



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