恋涙
桜が散り初めた四月の下旬。
私はソロのリサイタルの仕事の準備に追われていた。
そしてリサイタル当日。
午前中にリハーサルがあり、午後からの出番だった。
この日は結構大きな仕事で、演奏が終わると何人かの人たちが花束を贈ってくれた。
と言っても、私はそんな有名人じゃない。
ただのボランティアだったから。
最初は私のピアノがメインじゃなくて、何かの集まりとかの束の間の休息みたいな感じだった。
「ここでピアノ演奏が入ります。」みたいなね。
だけど、この日は自分だけの初めてのステージだったんだ。
花束をもらって控え室に戻ろうとしたとき、スーツを着た背の高い一人の男性が声をかけてきた。
「今日のピアノ演奏、最高だったよ。君、いつからピアノ習ってるの?」
この人との出会いが、少しだけ自分の人生を変えることになる。