路傍の花
◆
朝露の雫が、肌を滑る。
やけに冷たくて目が覚めた。
…ああ、もう少し
眠っていたかったのに
さんさんと降り注ぐ太陽の光は
容赦なく
次の季節へと
私を急き立てる。
次の季節、
次のステージへと。
◆
ずっと、見ているだけだった。
あなたはちっとも
知らないだろうけど。
毎朝かならず
「おはよう」と
話しかけてくれること。
たまに、ふんわり
優しく頭を撫でてくれること。
毎朝、学校の前で
大きく伸びをすること。
それから小さく一言
「よしっ!」と
気合いを入れること。
全部、全部
あなたの大好きなところ。
ねぇ、わたし
よく見てるでしょ?
想いを打ち明けることは
ついに出来なかったけれど。
◆
うららかな春の休日
わたしは現実を知った。
あなたの傍らには
それはそれは美しい
一輪の薔薇があった。
大切に育てられた上品な花。
…よく似合う
ふたりだと思った。
凜としたあなたに
美しい彼女。
まるで夢のような恋人達が
目の前で
愛を語っていた。
私の出る幕なんて、
最初から無かった。
どこにも、無かった。
あなたに伝えられなかった
沢山の想いを
この身に蓄えて
私はここで
精一杯の花を咲かせる。
ねぇ
特別、珍しいものでも
格別、美しいものでも
ないけれど
あなたにとっては
「その他大勢」の中の
一人かもしれないけれど
きっと
花開いた
わたしの蜜は…甘い。
蓄積された、愛の分だけ。
◆
季節は、巡る。
強さを増す陽の光が
私の色を濃くして
初夏の訪れを、告げる。
【了】
※
ツツジ
4月から5月の春先にかけて漏斗(ろうと)型の特徴的な形の花を数個、枝先につける。花を上手に採ると花片の下から蜜を吸うことができる。
(Wikipediaから一部抜粋)
花言葉は
「自制心」
「節制」
(赤)「恋の喜び」