「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「伊織ーーー」


ぼーっと歩いて駅前まで近付いた時。
伊織の名を呼ぶ声がして、俺はハッと顔を上げた。


「待ってたあっ」


そう、声が続く。


その声に聞き覚えがあった。


目の前にいるのは、伊織。
その伊織の腕に自分の腕を絡ませる女。


“……実は、返品されたんです”


――――――……俺を返品した女。早夜。



「早夜、暑いから離れて」

「えー!いーじゃない」

「はあ、まじうざっ」


伊織はそう言いながらも、満更でもない顔を見せる。
それに、早夜も満足気だ。


俺は立ち止まったまま、二人を見つめる。
俺に気付いていない二人は、タクシーに乗り込むとどこかへ行ってしまった。



なんて。
残酷なのだろうか。


この仕事は。


俺に物足りなさを感じた早夜は、伊織を選んだんだ。



“レンタル彼氏をするのにぴったり、に見える”



どこがだ。
俺より。


余程、伊織のがぴったりじゃねえか。
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