「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「吏紀が」


その名前を出した瞬間、伊織の顔が無表情に変わった。
それから俺をじろっと見ると低い声を出す。


「吏紀が…何?」

「伊織を…心配してた」

「………」

「助けてやってくれって」

「……何をだっつーのな?」


伊織は強張った顔から一転して、笑顔を見せた。


「それじゃ、俺仕事だから」

「…ああ」


それ以上、何も言えなくなった俺は黙って伊織がエレベーターに乗り込む姿を見つめるしか出来なかった。


伊織は何も変わらない様に見えるのに。
酷く何かが変わったかの様に見えた。

だけど、その原因を突き詰めようとはしない。


俺達は皆、何かがあってここにいるのだから。

改めて感じた様な気がする。



変わったか、変わってないか。
そんなのわからなくて当然なんだ。

俺達はそこまでの仲でないのだから。


レンタル彼氏のSランクという奇妙な絆で繋がっているだけ。
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