「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
この日から、俺と伊織が顔を合わせる事はほとんどなかった。
顔を合わせても、挨拶すらしない。
聖も忙しいのか、話す事もなく、一ヶ月が過ぎた頃だった。
その日も仕事で、俺は準備をすると部屋から出る。
すぐに聞こえた声。
「何でだよ!」
…聖の声?
エレベーターの前まで行くと、聖と伊織がそこにいた。
何やら口論している。
「俺にも話せないわけ?
何があったか!」
「……だから、何もなかったって」
呆れたように笑う伊織。
聖はイライラしてるのか、つま先を上げては床に打ちつけてを繰り返している。
「もう、いい」
「……」
聖はエレベーターのボタンを押すと、そのまま中に入って行った。
伊織は溜息をつくと、壁にもたれかかる。
何も言葉に出してはいないが、吏紀との事だと容易に想像がつく。
伊織が髪の毛を掻き上げながら顔を上げた時、俺とばちっと目が合った。