「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「……あ」

「……悪い。聞くつもりはなかった」

「……そう」

「吏紀の事か」


伊織は目を伏せると、コクンと小さく頷いた。

やっぱりか。
だけど、何も聞くつもりはない。


俺は伊織の隣まで行くと、無言でエレベーターのボタンを押した。


俺も伊織も何も言わない。
お互いが、深いとこに立ち入る事を拒否している。
それだけはわかる。


「……ねえ」


徐に伊織は口を開いた。


「俺の言葉覚えてる?」

「…言葉?」

「そう、俺の言葉」

「………何?」


ゆっくりと、伊織は顔を俺の方へ向けると口角を上げた。
それから、言葉を続ける。


「レンタル彼氏にぴったりっての」

「………」


“レンタル彼氏をするのにぴったり、に見える”


覚えてる。
四人で飲んだ日。


意味が分からなかったから。


俺が返事する前に、タイミングがいいのか悪いのか、エレベーターの扉が開く。
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