「愛」 -レンタル彼氏-【完結】

「あれ、訂正するね」

「え?」


伊織は無表情のまま、ぽろぽろと言葉を落とした。


「……俺のが余程、レンタル彼氏にぴったりだよ」

「………」

「そう、思うでしょ?」

「わかんねえ」

「はは。だよね。ごめん、仕事でしょ?行ってらっしゃい」

「…ああ」


伊織はわざとらしい笑顔を見せて、俺に手を振って扉が閉まるのを見送る。
結局、俺は何も言えずにエレベーターに乗り込んだ。



“……俺のが余程、レンタル彼氏にぴったりだよ”


早夜と歩く伊織を見て。
確かに俺はそう、思った。


なあ。


誰もがこの仕事に向いていて、向いていないんじゃないか?




伊織が何に苦しんでいて、どんな過去があるのか。
俺は何も知らないし、知りたいとも思っていない。


だけど。
俺は伊織はこの仕事に向いていないと思った。


伊織も俺と同じ様に孤独を持ち合わせている様に思えた。
< 218 / 302 >

この作品をシェア

pagetop