「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「千里、お姉ちゃん死んだ後マンションに来てくれたんだよね」

「…ああ」

「荷物引き取ってくれるって言ってくれてありがとう」

「…あれは愛海だったのか」

「うん、そう」


俺がくるみの部屋の荷物を預かろうと、約束の日部屋に向かったらそこには何もなかった。
大家さんに話を聞いたら、身内が引き取りに来たよとだけ教えられていたんだ。

まさか、愛海とは思ってなかった。


「お姉ちゃんの部屋、普通だったでしょ」

「……」

「何度も泣きながら片付けたんだ。
今にもただいま!って帰って来そうな気がしてさ。
あ、そうそう、前にさ千里の部屋に忘れたこのピアス」


そう言いながら愛海は髪の毛を耳にかけて、それを見せた。
アクアマリンのピアス。


「お姉ちゃんに貰ったヤツなんだ。
幸せな結婚や縁をくれるんだって。
…事故に遭った翌日が私の誕生日だった」

「………」

「私の誕生日前日に会う約束してたの。
お父さんと一緒に選んだんだって。
事故の後カバンの中から…これ見つけて」

「…泣くな、どうしたらいいかわかんねえ」

「ご、ごめん、だよね」


愛海は慌ててカバンから小さなタオルを取りだすと、涙を拭った。
それから、笑顔を繕うもどうにもぎこちない。


理由は痛いほどわかってるけど、俺は敢えて何も言わなかった。
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