「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
「…悪い、平気だ」

「………」


きゅっと手に持ったハンカチを握ると、その手を愛海は引っ込める。


「…愛海」


俺の声にぴくりと、その体が反応した。
愛海は不安そうに俺の顔を見つめると、次の言葉を待っている。


「くるみは。
やっぱり綺麗だったよ」

「…え?」


意味が分からないのか、首を傾げて愛海は目をくりくりとさせる。
そんな様子にふっと笑った。


「くるみは変わってなかった。
くるみは俺だけを愛してたんだ。
勝手に俺が裏切られたと思ってたんだ」

「………」

「俺がくるみを信じてなかっただけなんだ」


そう。
俺がくるみを信じてなかった。

疑うには当然の状況だった。
だけど、俺はくるみの口から何も聞かなかった。


車に乗り込むくるみを見た時に、捕まえればよかったんだ。
修羅場でもなんでも、起こせばよかったんだ。

きっと。


くるみは笑っただろうから。


笑って、俺に信じなさいって。

諭しただろうから。


数年もの間、苦しんできたのに。
…なんて呆気ない。
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