「愛」 -レンタル彼氏-【完結】
俺から、話す事もない。
そう思った俺は、特に会話を切りだす事もなく、流れる景色を眺めた。

芳香剤なのか、シトラスの香りが車には漂ってて。
それが気分を落ち着かせる。


「……千里」

「え?」


黙ってたのに、また突然俺を呼んだ愛。
吃驚して、愛を見たが表情から感情は読み取れなかった。


「お腹空かない?」

「は。お腹?……別に」

「うっそ~。なんか、食べたの?」

「いや、別に」

「じゃあ、空いてるよ、行こう。
ランチのおいしいお店があるんだ」

「………」


要は愛が食いたいんじゃねえか。
って言いたいのを、突っ込まないでおく。


それから、機嫌が直ったのか、愛は一人でべらべら話をしていた。
俺はずっと相槌を打つだけ。

強気な口調は変わらなかったけど。


「ここ、おいしいんだよ」

愛が連れて来たのは、駅前の高いホテルのランチみたいだ。
…普段から、こんなとこにランチ来てるのか。

俺、こんな場所にランチあったって事自体知らねえぞ。
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