囚われの蝶 【密フェチ】
左手で鮮やかに筆を操りながら、時々キャンバス越しにこちらを向く彼の視線。
妖しいまなざしが、あたしの全身を撫でてゆく。
ううん、“撫でる”なんて生温いものじゃない。
まるで肉食獣が獲物を追いつめるように。
ぞくぞくする。あの眼に捕らわれると。
触れられてもいないのに、見つめられているだけなのに
自分の中から沸き上がる得体の知れない熱が、怖くて――
「――逃げんなよ」
ふいに響いた彼の声に、ビクリとした。心を読まれたのかと思った。
カタン、と筆を置く音。立ち上がった彼はこちらに歩いてくると、強引にあたしの手首をつかんで引き寄せた。