棘姫

空っぽな心を引きずり、
家に着いた。


隣の恭哉の家を見上げる。

いつもなら、ここまで一緒に帰ってたのにね。

優しく笑いながら、私が中に入るまで見送っててくれてたのに…





胸がチクリと痛む。

ドアを開けようとした時、ポケットの中の携帯が震えた。



…誰?
恭哉、かな?


急いで携帯を取り出す。
画面には【由愛】と表示されていた。

少しでも期待した自分がバカみたい。




メールを開く。


【委員会お疲れ♪
あのさ、明日の放課後制服のままで行く?それとも家に帰って私服で行く?】



…明日?
明日何かあった?



そこまで考えてやっと内容を理解した。

明日、放課後遊びに行く約束をしてたんだ。




『援交じゃない?』

『ヤダー!!
軽く犯罪じゃん?』


同時にトイレで聞いてしまった会話までもが蘇る。




私…少しでも由愛を疑ってしまってる。

恭哉だけじゃなくて、
由愛までも傷付けるの?



こんな気分で遊びに行って大丈夫かな?

前は由愛と遊べるの、楽しみで仕方なかったのに。



本当かどうかも分からない噂で、自分の心がこんなにもかき回されるなんて。

今までは他人に無関心なところがあったから、こんな気持ちは初めてだった。


更に重さが増した体と共に私は家へ入った。


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